五代目当主・榛

1023年1月 出陣・忘我流水道(後編)

まだ1月は終わりません。
家にいる剣盾のことも忘れないで。

お迎えが近づきつつある…。
命の灯火が消えるわけではないんだ。
イツ花ちゃんのこの言葉、初めて見たかもしれない。

はじめに言っておきます。
竜胆くん、本当に申し訳ございませんでした(初手謝罪)

本当やめたほうがいい。思いつきでキャラ付けするのは。とんでもないことになる。

そんなとんでもない人生を送った竜胆を紐解いていきます。
「昔々あるところに」から語り始めるので、正気を失いながら追っていこう。

竜胆は静匁木一族の天才問題児・青磁と情け深いお地蔵様・地蔵堂円子様の間に生まれました。

親同士が善と悪の対比のよう。
竜胆も善と悪の二つの心を持って生まれます。
そこに着目した円子様。一族を気にかけてくださっている円子様。

生まれてくる息子の心を分割して、一族に授けます。

そして生まれた良い子こと、素質的に超強い竜胆くん。

竜胆は剣士として前に立ち、みんなを守る術を学ぶため、先輩剣士の浅葱より指導賜ります。

ちなみに同時期、特注剣・鎮メ鬼も鍛刀されています。

この鎮メ鬼とかいう刀に、竜胆のもう一つの心が宿っているんですね。
初っ端から濃い。でも残念ながら、まだ序の口です。

ここから、エンジン全開。ノータイムでぶっ飛ばします。

初陣あたりの竜胆は、自分の使命や環境に何の疑いもなく、ただただ柿や路考に従っていました。

柿は当主だから従う。
加えて、己と同じ奉仕の精神を持ちながらも危うい柿の精神が、竜胆の庇護欲を掻き立てたのでしょう。

路考は木霊の弓を駆使した戦闘センスが素晴らしい。
前向きで武器の扱いにも長ける路考は、竜胆にとって友人でありながら尊敬の対象だったのでしょう。

柿や路考も、優しく朗らかで強い竜胆を信頼していました。

そして、満を持して大江山の朱点童子戦へ。
竜胆は愛刀・鎮メ鬼とともに宿敵と相見えます。

竜胆はずっと最前線に立っていた。
朱点童子の力を強く肌で感じていた。

竜胆は戦闘中、大江山前に惜しくも命尽きてしまった父親・青磁の戦法を見習い、朱点童子に黒鏡を使います。

その時、鬼の力を感じたんでしょうね。
非常に強大な力だと思ったんでしょうね。
この力があれば、柿や路考を始めとする、一族みんなを守れると思ったんでしょうね。

結果は試合に勝ったが、勝負に負けた。
大江山で終わらなかった。
真の敵は身近なところにいた。

竜胆は一族内で最も武に優れた男。しかし、今までは流れに身をまかせるように戦っていたに過ぎません。

自分の行動を自分で考えられない。
周りを牽引する力を持っていない。
誰かの行動を見て、真似するように行動することしか出来ない。

でも、このままじゃ駄目だ。もっと強くならなきゃ。

竜胆なりに考えました。これからの一族を守るために自分ができる、最善の行動を。

それが、朱ノ首輪に手を出すことです。
大江山で朱点童子を黒鏡で写していた竜胆は、鬼の力強さを知ってしまった。

結果、何が起こったか。

朱ノ首輪の効果で、精神が不安定になります。
常時呪われた状態です。

さて、めちゃくちゃ存在を忘れていた竜胆の剣・鎮メ鬼。
刀の身ですが、竜胆の半分の魂が宿っています。

いつも竜胆の傍でアレコレ口出しをしています。しかし、竜胆自身が己の身を顧みないので、当然刀に己の半身が宿っていることなど、これっぽっちも気づきません。

そんな鎮メ鬼。朱ノ首輪をつけた竜胆に捨てられます。時代は属性武器。
テメエエエーーーーーッッ!!!

ただ刀の持ち手である竜胆の精神は絶賛不安定。器となる身体と魂の結びつきが揺らいでいたのでしょう。
「鎮メ鬼」が「竜胆」の器を乗っ取ることは容易かった。やったぜ。

鎮メ鬼くんは初めて自由に行動できる、人と会話できる状態になりイキり始めます。
でも人の身に慣れていないので、カスみたいなダメージしか与えられません。

装備している武器も、源太の剣なのでね。
俺(鎮メ鬼)本体ならもっと上手く扱えたってのにアイツはよ〜〜!

ですが、そんな鎮メ鬼くんも呪われていることに変わりありません。朱ノ首輪の効果で路考を傷つけます。
慣れない器に宿っていることもあり、身体の制御がきかないのです。

当時隊長だった路考は「こいつあヤベエ」と帰るなり即、竜胆から朱ノ首輪を外させます。

また、柿に竜胆へ名品を贈与することを提案。

受け取ったのは竜胆ではなく鎮メ鬼なんですけどね。
初めてプレゼントもらったぜ!という感じで嬉しかったんだろうな、鎮メ鬼。

忠心めっちゃ回復した。

その後の討伐で路考に、「お前を信じる」「お前も竜胆だ」と言われて満足が高まった鎮メ鬼。
その言葉が欲しかった。
鎮メ鬼の魂はすごすごと本来の刀の器に戻っていきます。

そして、竜胆が再び目を覚まします。

「仲間を傷つけた」「迷惑をかけた」ということを引け目に感じ、それまで以上に献身的になります。

自分は身を挺することしか出来ないのに。何がダメなんだろう。
再び途方に暮れます。

その思いのまま交神へ。春野鈴女様と出会います。そこで鈴女様からお告げされるのです。

まず自分を知りなさい、と。

「お友だちから始める」のは何も鈴女様とだけではない。

あなた自身が自分の心と、お友だちから始めるように向き合うの。そうすると道が開ける…かも!頑張ってね。

そう春野鈴女様から教わった竜胆。

自分の身に起きた不可思議な出来事を解明すべく動き出します。

語りかけてみたり、手紙を書いたり、戦いの中で探ってみたり…。
鎮メ鬼も一度竜胆の体を乗っ取った経験や、竜胆自身が此方に意識を向け始めたことで、干渉することが容易になっていったのでしょう。

そして竜胆は気付いた。己の正体に。
「静匁木」一族の本名である字を冠す、特注剣「鎮メ鬼」。一族を守るための武器。同じ時期に生まれた存在。

そこにカラクリがあった。「竜胆」と「鎮メ鬼」はもとは同じ魂を持つ存在、「自分」だったんだ。

竜胆は今まで自分を大切にしなかったから、鎮メ鬼という半身に気づかなかった。
でも、今は違う。多くの人との出会いや経験が「自分」を形成し、「自分」を知ることに繋がることを知ったのです。

それからはもう快進撃です。
幸運の神がついてんじゃないかってくらい、調子が良かった。

そして竜胆は次代に続く当主の娘を指導し、人生の幕を閉じます。
すげえ人生だよ。ここまで繋げるのにノイローゼになるかと思った。
朱ノ首輪に手を出したことが、運命の分かれ道でした。

竜胆に最も足りなかったものは何か。
それは「自分を愛する気持ち」。

強いんだからもっとデカイ顔したらいいのに、そんなことはしない。
むしろ力があるからこそ、誰かに尽くさなければならないと…そう考える人だったから、「自分」に愛されない鎮メ鬼は寂しかったんでしょう。

路考に言われた言葉…本当は竜胆に言って欲しかったんだ。
「自分を信じる」「君も俺だから」
それが鎮メ鬼を満たす言葉だったのに。

竜胆のこの遺言。3段構成なんですよね。

まずこの遺言を見た時、「己の身を滅ぼすことも厭わない心」を感じました

竜胆の本質はこれなのか。違和感無し。
優しく語りかけるような言葉や声も、竜胆のイメージ通りでした。

では、竜胆はこの言葉で何が言いたかったんだろう?

この遺言、一見それっぽい言葉なんですが、何が言いたいのか全くわからない。

「居場所をあけるとは?」
「戦えない人間がいると、どうして生きてるもんが窮屈なんだ?」

意味を考えるうちに、私は青磁を思い出していた。

青磁は竜胆の父。

彼は寿命を迎えるにあたって、生きている者達にドデカ爆弾を落とし、他人の記憶の中で永久に生き続けるという選択をしました。

それの甚大な被害者が四代目当主の柿。
大江山後の絶望と、大江山前に亡くなった青磁の思惑が重なり、精神的に大ダメージをくらいました。
その様子を側で見ていた竜胆は、こう思ったのでは?

「死に行く者が、生きている者の足枷になってはならない」

「居場所をあける=去る」、「窮屈=足枷」と仮定します。
ならば、「戦えなくなったら、潔く去るべきだ」ということを、竜胆は言いたいのかなあと思いました。

そこまできて、唐突に既視感を覚えました。
既視感の正体はこれです。

浅葱…。竜胆の剣の師匠です。

師弟関係の彼らの遺言が「戦えなくなったら」でお揃いだ〜!とか言ってる場合じゃないんですよ。

思い出さざるを得なかった。
師弟だった二人のその当時の話を描いていたことを。

剣士の心 ...

これは浅葱逝去時に私が描いた漫画。
この漫画を見れば分かりますが、初期の竜胆と今の竜胆はかなりキャラが違います。私のせいです。

このキャラブレも上手いこと落とし込めたら良かったんですが、まあ無理だよね。
ダーク竜胆(現:鎮メ鬼)の出来事を追うので手一杯でした。
なので、私は極力この漫画の内容に触れないようにしていたのですが…

竜胆自身が遺言で触れてきた。

さて、竜胆と鎮メ鬼について、どうしても説明出来ない箇所があります。
竜胆は何故、鎮メ鬼が己の半身だと気づいたのか?

肝心の要素なのに、マジで思い浮かばなかった。頑張れよ。
ですが、その答えがここにあった。

これは浅葱の言葉。

浅葱は脆い剣士でした。
当主・千種と天才・青磁の間に挟まれた、簡単に言えば歴史に埋もれてしまう存在です。

そんな浅葱の言葉を、竜胆はずっと大切に心の片隅に留めていた。
だから竜胆は、「もう一つの心」の存在に気づいたのではないでしょうか。

ずっと鎮メ鬼は竜胆に呼びかけていた。
浅葱は彼らの橋渡し役を担っていた。
その橋が橋として機能したのは、竜胆が浅葱の言葉を大切に胸にしまっていたから。

それまでの竜胆の全ての点が、線で繋がった。
浅葱はずっと生きていた。竜胆の心の奥底で。

浅葱と竜胆という人間に、血が通ったことが嬉しくて泣いてしまった。
亡くなった人が、いつか誰かの人生にひょっこりと顔を覗かせることがある。
そう思うと、今を大切にしたいなあと思ってしまいます。

で、それはともかくとしてよ。結局、竜胆って一族的には何だったの?
今までの話は竜胆の内面の話。

Q.竜胆の対人関係はどうだったんですか?
A.本人が猛省するだけあって、周りを振り回し続けていました。(解散)

それなのに、ほぼ誰からも嫌がられていないんですよね。不思議。
でもそれがミソなんでしょう。

前にも言ったことがある。何故みんな竜胆に優しいのか。

綺麗に収束した竜胆の人生。しかし、竜胆以外の一族にとっては、「竜胆という人は何だったんだ」で終わっています。鎮メ鬼とのやりとりは、本人たちの間だけでの話だからね。

その上で、竜胆は信頼できる男だと思われています。
何故だろう。

それはおそらく、「竜胆といると安心するから」ではないでしょうか。
何故竜胆といると安心出来るのか。

それは竜胆が間違いなく、何が起こっても絶対的に、一族のみんなを愛しているという確信が、私だけでなく一族全員の共通認識としてあるからだと思います。

竜胆が何をしようと、どんな人物であろうと、「竜胆は絶対に裏切らない」。

そこだけは明確。ずーっと一族のために奮闘してくれたのはみんなよく知っている。朱ノ首輪で忠誠心が22まで下がっても、家出などしませんでした。

黄川人くんに裏切られ、神様の思惑も分からず、誰も信じられない現実。
こんな時代の、こんな世の中だからこその竜胆なんです。

無条件に愛して、守ってくれる人。
そこが竜胆を人らしからぬように思わせる部分であり、側にいて欲しいと思わせる部分なんでしょうね。

世界が崩壊する時に、側にいて欲しい人。終末が竜胆に合っている。
まあでも、竜胆が死んでも世界は終わらないわけで。一族の呪いも続くわけで。

だからここに置いていく。

鎮メ鬼。
特注剣、継承刀。竜胆が生きた証。竜胆の半身。

竜胆は何処にも行かない。
思い出とともにここに在る。

だってまだ続いている。
それは悲願達成への遠い道のり。

鎮メ鬼を通して、再び会いましょう。
それまでの間、またね。

竜胆。

漫画:剣士の心〜リターンズ〜